『暁の寺』の最後で亡くなったジン・ジャン(月光姫)が日本人に転生したことは間違いないと思われます。では、誰に転生したのでしょうか。安永透は、やはりニセモノなのでしょうか。
ジン・ジャンは日本に帰ることを望んでいましたが、男に生まれ変わることを望んでいた様子はありません。そもそも飯沼勲がジン・ジャンという女性に転生したのは、勲が女に生まれ変わることを望んだためでした。ここから考えると、ジン・ジャンは日本人の女性に転生したと考えるのが自然なように思われます。
そこで浮かび上がるのは『天人五衰』の最後で、月修寺門跡(綾倉聡子)と共に現れる「若い御附弟」です。『春の雪』では聡子は月修寺の御附弟でした。『奔馬』で本多繁邦は松枝清顕の転生を知った夜、この転生を月修寺門跡となった聡子に知らせようかと迷いましたが、自分が駆け回らなくても聡子が生まれ変わった清顕と会う機会は来るだろう、と考え直しました。
安永透は何者でしょうか。どうもジン・ジャンの双子の姉と同じ役回りのような気がします。透は両親を早く失った孤児で貧しい伯父に育てられたとあり、双子だったとは書かれていませんが、想像の余地はありそうです。
繁邦の養子となった本多透はある雪の日に、黒いベレー帽の老人が野菜屑や女の鬘を落とすのを目撃します。この日はおそらく月修寺で御附弟が剃髪した日で、透はそれを幻に見たのではないでしょうか。
月修寺を訪れた本多は聡子との不思議な対面を終えて、聡子と御附弟についてゆきますが、最後は聡子も背景に退いて御附弟と本多だけになり、「何もない庭」を見つめます。これは『春の雪』冒頭の清顕と本多の会話、セピア色の写真に対応するようです。
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