転生のしるし「左脇腹の三つの黒子」は『豊饒の海』では大事な役割を持っていますが、三つの黒子は三角形でしょうか。それとも一列に並んでいるのでしょうか。
黒子の描写が最初に現れるのは『春の雪』五で、松枝清顕の黒子は「あたかも唐鋤星のように」と書いてあります。唐鋤星はオリオン座の三つ星のことで、これを見ると三つの黒子は一列に並んでいると考えられます。
三十二で、本多繁邦が初めて清顕の黒子を見る場面では、三つの黒子は「集まっている」と表現されているだけです。
『奔馬』五で、本多が飯沼勲の黒子を見て驚く場面でも「集まっている」という表現です。
『暁の寺』十で、本多が月光姫を思い出す場面では「三つ星の黒子がなかった」となっています。三つ星といえばオリオン座の三つ星でしょう。ここからは、勲の黒子も一列に並んでいたことが分かります。
四十四で本多が月光姫(おそらく双子の姉)と久松慶子の同性愛を覗く場面では「昴(すばる)を思わせる」三つの黒子と書かれています。昴はおうし座のプレアデス星団ですが、すばるは肉眼では六つの星が見えますから、この表現は奇妙です。三島由紀夫はわざと奇妙な比喩を使って、ここに登場する月光姫が本物ではなく、姉と入れ替わったことを暗示したのでしょうか。それとも深い意味はないのでしょうか。
『天人五衰』六では安永透の黒子が「昴の星のように」と表現されています。
二十七では慶子が本多透に向かって「あなたの左の脇に三つ並んだ黒子」と言っています。ここで決定的な表現が出てきました。星の名を使った比喩でなく、はっきり「並んだ」と書いてある。これを「昴の星のように」とも書いた三島は、透がニセモノであると暗示したのでしょうか。そんな気がします。
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5月3日に追加
『暁の寺』三十六を読み落としていました。本多繁邦が志村克己に月光姫の黒子を見たかと問う場面で、本多は「三つ、それこそ人工的な位いみごとに並んだ黒子」と言っています。
これは完全にオリオン座の三つ星です。昴ではありません。