『暁の寺』四十で、本多繁邦とジン・ジャン(月光姫)は麻布の久松慶子の家で会いますが、このときのジン・ジャンはかなり様子が変です。御殿場で志村克己から慶子の別荘に逃げ込んだ事件の後の面会ですから、硬くなりそうなものです。
慶子は本多に「あなたはけろっとしていらっしゃればいいのよ」と耳打ちします。
「本当に気づいていないのか、それとも気づかぬふりをしているのか」
慶子から「本多さんよ」と言われてジン・ジャンは「あら」と本多に顔を向けます。
「完全な微笑があって、すこしの硬ばりも見られなかった」
「ジン・ジャンの目には、しかし何らの表情がなかった」
「柔らかい微笑のうちに、教科書のような返答をした」
ジン・ジャンは指環をはめておらず、本多はこれを「涼しい拒絶」と受け取りますが、涼しすぎる感じです。
慶子はどこまで知っているのか分かりません。
四十二でジン・ジャンを再び別荘に招く夏の朝、本多は富士山を見つめます。濃紺の富士をしばらく凝視してから、突然すぐわきの青空へ目を移すと、白無垢の富士の幻が現れます。本多は「富士は二つあるのだ」と信じるようになっていました。
プールで黒子の無いジン・ジャン、寝室で黒子の有るジン・ジャンを見て本多が眠った後、別荘は火事になって二人の客が亡くなります。逃げた本多は暁の富士を見つめ、すぐかたわらに冬の富士の幻を見ました。
ここで昭和27年(1952年)の部分は終わり、15年後の双生児の姉との出逢いに続きます。おそらく「再会」ではなかったかと思われます。
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