『仮面の告白』の後半で、作者の三島由紀夫と思われる「私」は草野園子への感情を周囲に誤解され、結婚の意志を確認されるに及んで、「婉曲な拒絶の手紙」を書きます。手紙を出す手は慄えていました。
すでに終戦(敗戦)が迫っていた時期で、東京への空襲は一段落し、アメリカ軍の空襲目標は地方の中小都市に移っていました。そんな中で「私」は考えます。
「戦争が勝とうと負けようと、そんなことは私にはどうでもよかったのだ。私はただ生れ変りたかったのだ」
「生れ変りたかった」には傍点が付されています。
『豊饒の海』と違って『仮面の告白』には仏教や輪廻転生についての詳しい説明はありません。この箇所も普通に読めば、心を入れ換えて別人のようになるといった、ありきたりの意味のようにも取れます。
しかし「私」は二十歳で死ぬこと、病気か戦争が自分を殺してくれることを願っていたようでもあります。それと考え合わせると、この「生れ変りたかった」は文字通り死ぬことを意味していたのかもしれません。
この頃すでに、輪廻転生はおぼろげながら三島の頭の中にあり、やがて『豊饒の海』に結実していったのではないでしょうか。
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