三島由紀夫の短編小説『花山院』は、平安時代の寛和2年6月22日(西暦986年7月31日)の夜半を過ぎた丑の時、つまり23日の早暁に起こった「花山天皇退位事件」を扱った小説です。藤原兼家・道兼父子が天皇を騙して出家させ、兼家の外孫である皇太子を即位させようという陰謀でした。
天皇は道兼に簡単に騙され、二人で寺に向かいますが、途中で陰陽師・安倍晴明の家の前を通ると、中から晴明の声が聞こえました。
「御退位を知らす天変があったが、はやそうあったと見えるわい。参内するぞ」
この天変について、古天文学者の斉藤国治氏が『星の古記録』で考察しています。計算の結果、この夜に木星が天秤座のアルファ星の北方0.5度に接近していたことが分かりました。木星は12年かかって天を一周するので歳星とも言い、国家や帝王を代表する星とされていました。天秤座は中国の星座(星宿という)でテイ(「低」のにんべんを除いた字)宿と言い、二十八宿の一つで昔は秋分点があった重要な星座です。安倍晴明はこの現象を観察していたと考えられます。
しかし、天皇と道兼が既に通り過ぎたと知った晴明は、参内を諦めました。
「お健やかに!陛下。上皇としての御半生のほうが、前の御半生よりもはるかに安らかな愉しい月日となりますように」
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