羽黒助教授の演説を聴いた大杉重一郎は「人間の欠点はその通りです」と認めますが「同じことなら、一刻も早くボタンを押すように骨を折ってやるべき」という意見には賛成せず「何とか救ってやる方法は考えられませんか」と言います。羽黒は「考えられませんね」とあっさり答えますが、重一郎は引き下がりません。
ここまでが第八章で、第九章ではさらに長い論争が続きます。その中で「人間の胴体の風穴」や「人間の五つの美点」も語られますが、その二つの間に出てくる「人間の美しい気まぐれ」も印象的です。
「気まぐれこそ人間が天から得た美質で、時折人間が演じる気まぐれには、たしかに天の最も甘美なものの片鱗がうかがわれる」
「今夜こそこの手に抱くことのできる恋人の窓の下まで来て、まさに縄梯子に足をかけようとするときに、微風のように彼の心を襲い、急に彼の足を沙漠への長い旅へ向けてしまう不可解な気まぐれ」
「私が希望を捨てないというのは、人間の理性を信頼するからではない。人間のこういう美しい気まぐれに、信頼を寄せているからだ」
羽黒は「気まぐれがボタンを押すことだってある」と言いますが、重一郎は「それは狂気だ。気まぐれじゃない」と反駁します。
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