最後の第十章で、大杉重一郎は末期の胃癌で余命はいくばくもないと診断されます。医者からこのことを告げられた息子の一雄はバルコニーで泣いているのを妹の暁子に見られてしまいます。その夜、暁子は病室で父に胃癌を告知します。
翌日の夜、妻の伊余子も追い出して一人になった重一郎に、不思議なことが起こります。
「彼の脳裡からは、あれほどいきいきとしていた全人類の破滅の影像が、俄かに力を失って、ほとんど消えかけていた・・あれほど確実に死に瀕していた人類は、ふたたび、しぶとい力を得て・・いやらしい繁殖と永生の広野へむかって、雪崩れ込むように思われた」
「重一郎を置きざりにして人間が生きつづけることは、もとより彼の予見に背いた事態ではあったが、疑いもなく、白鳥座六十一番星の見えざる惑星から来た、あの不吉な宇宙人たちの陰謀に対する、重一郎の勝利を示すものでもあった」
「犠牲という観念が彼の心に浮んだ。宇宙の意志は、重一郎という一個の火星人の犠牲と引きかえに、全人類の救済を約束しており、その企図は重一郎自身には、今まで隠されていたのかもしれないのだ
三島の死後にこの文章を読むと、複雑な感慨を禁じ得ないものがあります。
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