病室で一人で過ごしていた重一郎は夜明けが近い頃、不思議な声を聞きます。重一郎は三人の家族を呼び集め、深夜に病院を脱出する指示を与えます。息子の一雄は黒木克己の新党結成について何も知らされず、自分が捨てられたと知ったばかりでした。
脱出に成功した四人は、自家用車のフォルクスワーゲンで神奈川県に向かいます。運転手の一雄は渋谷の雑沓を見ながら「われわれが行ってしまったら、あとに残る人間たちはどうなるんでしょう」と言いますが、重一郎は「何とかやってくさ、人間は」と答えます。
東生田で車を下りた四人は南の丘を登り始めます。行く手には蠍座や天秤座が輝いています。
「重一郎は、自分が今どこを歩いているのか、ほとんど意識も定かではなく、苦痛の堺もすぎ、喘ぐ自分の息と、乱れる脈搏だけをはっきりと聴いた
『天人五衰』で本多繁邦が月修寺へ向かう場面を思わせますが、本多と違って重一郎は一雄と暁子に支えられています。暁子が叫びます。
「来ているわ! お父様、来ているわ!」
「円丘の叢林に身を隠し、やや斜めに着陸している銀灰色の円盤が、息づくように、緑いろに、又あざやかな橙いろに、かわるがわるその下辺の光りの色を変えているのが眺められた」
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