『美しい星』で邪悪な宇宙人たちの故郷とされる白鳥座六十一番星について、三島は作品中で解説しています。
「この甚だぱっとしない六等星は、ドイツの天文学者ベッセルが、一八三八年に、はじめて恒星の距離測定に成功した記念すべき星で、その十一光年という距離は、われわれの肉眼で見える恒星のうちでは四番目の近さだった。羽黒の説明によると、六十一番星は二重星であって、その二重星のどちらかに見えざる惑星が随伴していることは確実であり、かれら三人はその惑星から来たのだった」
恒星の距離測定は、原理的には簡単です。地球が太陽のまわりを一年かけて公転するのに伴って、恒星の位置は動いて見える(年周視差)ので、三角測量をすればよいのです。しかし恒星は非常に遠いので、肉眼で年周視差を測定するのは不可能です。さらに「光行差」の問題もあります。雨の中を傘をさして走ると、雨がまっすぐ降っていても傘を斜めに傾けないと濡れてしまいますが、地球に降り注ぐ恒星の光でも同じ現象が起こります。これを光行差と呼びますが、光行差のほうが年周視差より遥かに大きく、これを知らないと全ての恒星が同じ距離にあるように見えてしまいます。光行差はベッセルより百年以上早く、イギリスの天文学者ブラッドリーによって発見されています。
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