『美しい星』では大杉重一郎が火星人、妻の伊余子が木星人、息子の一雄が水星人、娘の暁子が金星人となっています。これは一見SF的ですが、実は全く非科学的な設定です。この小説が書かれた1962年当時でも、これらの惑星に人間のような知的生命体はいないだろうと考えられていました。
水星は月によく似ており、空気も水も無く、クレーターに覆われています。金星は濃い大気がありますが、二酸化炭素の温室効果のために温度は四百度を超える高温です。木星は寒すぎます。火星は微生物がいる可能性は残されていますが、ウェルズが描いたようなタコ型火星人は完全に否定されています。三島は科学やSFにも詳しかったので、もちろんこんなことは知っています。これは純文学であってSFではないことを示すために、このような設定にしたのでしょう。
面白いのは土星人がいないことです。土星は美しい環を持ち、一般の天文ファンには人気があります。当時の標準的な四人家族に合わせて土星を外したのかもしれませんが、外すならば土星より水星のほうがよかったのではないでしょうか。水星と金星は太陽系で地球より内側の軌道を回っているので、真夜中に見えることはありません。それで金星を「宵の明星」「明けの明星」と呼びます。水星は金星より暗く、しかも太陽に近いので、見るのが難しい惑星です。実は私も水星は見ていません。
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