「古代ギリシアのスパルタでは、少年たちに泥棒行為が奨励されていました。御承知のとおりスパルタは尚武の国ですから、これは兵士としての敏捷さをみがく訓練だと考えられたわけです。実際、戦争という国家的泥棒が肯定されるなら、個人生活の泥棒も肯定されなければならぬわけで、ギリシア人の考え方は、とにかく筋がとおっている」
これがこの章の冒頭ですが、ローマ神話のメルクリウス(マーキュリー)も商人と盗人の神であり、惑星の水星に当てられていました。水星は太陽に最も近い惑星で、ケプラーの法則によって動きが速く、逃げ足の速い盗人のようだということです。大昔から商人と盗人は紙一重だったという見方もできます。
「私はスパルタの少年の如き訓練を、もっと復活すべきだと思う。国立ドロボー学校、国立殺人学校、国立ヤクザ学校などを政府が設立して、悪のルールをよく仕込み、頭のわるいやつはどんどん落第させるのである。そうすればこのごろのドロボーなど、百人のうち九十九人まで落第組であって、落第すればだんだんグレて来て善良なる市民になる他はない」
こうして「善良なる市民」の数が今の数倍にふえるというのですが、これを文字通りに受け取る必要はないでしょう。三島の戦後の日本への反発や怒りがよく表れていて、後の「楯の会」にもつながるのでしょう。
三島は最後に、ある有名女優がサインをするためにファンから渡された万年筆を返しそびれてしまったのを見て「じゃ、俺がもらっとくよ」とポケットに入れてしまったエピソードを明かし、「これを読んで、「返してくれ」と言って来る人があっても、返してやらないよ」と結びます。こんなところが三島が現代まで愛される理由かもしれません。
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