稲垣足穂の『黄漠奇聞』を載せたのは雑誌『中央公論』大正12年2月号ですが、同じ年の『少女倶楽部』3月号に載ったのが加藤まさをの『月の沙漠』です。これは詩と挿画から成る作品でしたが、佐々木すぐるが曲をつけて童謡『月の沙漠』が生まれました。
稲垣足穂と同様(私もそうですが)加藤まさをも日本国外に出たことは無く、想像に任せて詩を書いたため、この詩は現実離れしているという批判は昔からあります。王子様とお姫様が二人だけで沙漠を行くなど有り得ないことで、たちまち盗賊に襲われるでしょう。沙漠の月が「おぼろにけぶる」のもおかしなことです。(砂嵐なら似た感じになるかも)この曲は日本の伝統的な都節に似た五音音階で、日本的な情緒の歌と言えます。
私の母がピアノでよく弾いていたのがこの曲で、私も弾かされたことがあります。(今は無理です)三島由紀夫の『豊饒の海』のタイトルは月面の「海」と呼ばれる黒い部分の地名から取られていますが、もちろん月には空気も水もなく、まさに別の意味で「月の沙漠」です。
アポロ11号が月面に着陸したのが1969年7月で『暁の寺』が連載されていた頃です。私はまだ小学校に入ったばかりでそんな小説は知りませんでしたが、木村繁の『人類月に立つ』という本が家の本棚にあって、よく読んでいました。表紙裏と裏表紙裏に詳しい月面図がついていて、地名をすっかり覚えるまで書き写し、月への夢をふくらませたものです。
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