ようやく読み終えました。これは今の私にとって面白い小説でした。村上春樹は第三部の最後に参考文献を挙げています。(第一部の最後にも、ノモンハン関連の多くの文献を挙げています)

「満州国の首都計画 東京の現在と未来を問う」越沢明 日本経済評論社 昭和63(1988)年
"BERIA STALIN'S FIRST LIEUTENANT" AMY KNIGHT,PRINCETON UNIVERSITY PRESS,1993

第三部の後半で間宮中尉(春樹はあえて「元中尉」とは書きません)は満州国の崩壊からシベリア抑留の苦難を語ります。日本軍やロシア人、モンゴル人の残虐もリアルに描かれます。アメリカ軍の残虐だけは、赤坂ナツメグなる婦人の話を通じて、しかも絶体絶命のところでアメリカ軍の攻撃中止で救われたという形で出てくるだけです。これは春樹の限界とも見られますが、戦後の日本が満州国の続きであることに彼は気付いています。
クミコの兄、綿谷ノボルは最後に脳溢血で倒れること、新潟が地元であることなど、田中角栄を思わせるところもありますが、角栄と違って東大出の都会的なエリートという設定なので本質的には無関係でしょう。綿谷はむしろ岸信介や安倍晋三に似ています。第三部の442頁で、主人公の岡田トオルは夢の中?のクミコに兄の正体を告げます。

彼は今その力を使って、不特定多数の人々が暗闇の中に無意識に隠しているものを、外に引き出そうとしている。それを政治家としての自分のために利用しようとしている。それは本当に危険なことだ。彼のひきずりだすものは、暴力と血に宿命的にまみれている。そしてそれは歴史の奥にあるいちばん深い暗闇にまでまっすぐ結びついている。

トオルは井戸の向こうの不思議な世界で綿谷?をバットで殴り殺し、現実の世界で綿谷は脳溢血で倒れます。妹として看病する立場になったクミコは綿谷の生命維持装置を止めて殺し、逮捕されます。再びトオルはクミコを待つことになりました。トオルは山奥のカツラ工場で働きながら自分を見守り続けた笠原メイを訪ね、幸運を祈って別れました。
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