松本零士の漫画『無の黒船・クライシスⅢ』は1988~89年に夕刊フジに連載されました。謎のテロ組織によって日本列島の沿岸がクラゲに覆われ、原子力や火力を含むすべての発電所が停止に追い込まれるという設定で、2011年の福島原発事故を思わせるところがあります。
今まで当ブログでは手塚治虫以外の漫画は取り上げてきませんでしたが、1970年代に『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』を大ヒットさせた松本零士の漫画も、私の精神形成に少なからぬ影響を与えています。戦後の日本が、悪く言えば奴隷や豚のような平和を貪っている現状に憤りを覚えた彼の思想は、三島由紀夫に共通するところがあるでしょう。
『無の黒船』は科学雑誌『ニュートン』の編集などで知られる地球物理学者、竹内均の監修を受けています。作品の中で竹内氏は「第3次元科学産業情報研究所」なる架空の研究所長として登場し、組織に誘拐された部下の女性科学者を「人間戦利品」と表現し、「フォン・ブラウン博士の例もある」と発言します。

第二次大戦の時は・・工業設備の全てを失い、そこで造り出した飛行機も、自動車も戦艦も空母もロケットも、全部を失ったみじめな日本人・・彼らに日本人の頭の中は見えなかった。能力も気力も見えなかった。気付いた時は超々経済大国。そして今度はアジアのカルタゴとしての運命を強制されようとしている・・

この作品では最後に原子力発電所を「やむを得ず」再開し、当面の危機は去り、根本的な解決は将来に委ねていますが、これには大いに疑問があります。原子力発電をやめる以外にどんな根本的解決があるのか、私には分かりません。三島由紀夫は「日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目のない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」と言いましたが、日本は既に経済大国ですらありません。
ケネディが宣言して実現させた(ことになっている)アポロの月への有人飛行に捏造疑惑が出てくると、松本氏の漫画も違う見方になります。『銀河鉄道の夜』の宮沢賢治も地球物理学に深い関心を抱いていましたが、幻想文学としての価値は今後も変わらないでしょう。
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