『春の雪』十一で、松枝清顕はシャム(タイ)で王女になる夢を見ます。ジャオ・ピーがはめているエメラルドの指環を自分がはめており、そのエメラルドに「小さな愛らしい女の顔」が浮かんでいたのです。
『暁の寺』第一部で夢日記を読み返した本多繁邦は、これから会おうとしている幼い二代目のジン・ジャンが清顕と飯沼勲の転生であると確信します。
第二部で本多が洞院宮の店で見つけたジャオ・ピーの指環を本人に返さず、日本に留学したジン・ジャンに渡したのも、夢日記を信じたからに違いありません。本多はこう言いました。
「それはどうしても君の指へ還るべきものでね」
御殿場の火事で指環がどうなったかは難しいところです。逃げ出したジン・ジャン(恐らく双生児の姉)は「指環?あら、部屋に忘れて来てしまった」と言いますが、指環は妹がはめていて言い逃れを言っただけかもしれません。それなら指環は無傷だったことになります。火に包まれてしまった場合はいろいろな可能性がありますが、最悪でも本多はお金持ちなので同じものを作らせたかもしれません。
清顕の夢の通りならジン・ジャンは帰国後もエメラルドの指環をしていたはずですが、『奔馬』で飯沼勲の夢に指環が出てこないのは多少気になるところです。
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