『春の雪』でシャム(タイ)の王子パッタナディド殿下(ジャオ・ピー)が従妹で恋人の月光姫(初代)から贈られたエメラルドの指環は、『豊饒の海』で大きな役割を果たしています。
学習院でジャオ・ピーが指環を紛失するのは、初代月光姫の死の伏線になっているし、『暁の寺』第二部で本多繁邦が指環を見つけ出すのは、二代目の月光姫(ジン・ジャン)が来日する伏線のようです。
御殿場の火事でジン・ジャンが指環を持ち出さなかったのも、二年後の死の伏線と見られます。このとき逃げたのは双生児の姉と思われ、妹のジン・ジャンが指環を無事に持っていたことも考えられますが、こうした全体の流れを見ると、やはり火事で焼けてしまったと見るのが良さそうです。
ところで、二代目のジン・ジャンは本多から指環を贈られて、どう思ったのでしょうか。初代月光姫がエメラルドの指環をジャオ・ピーに贈ったのは、ジャオ・ピーが五月生まれで、その誕生石がエメラルドだったからでした。
ところが二代目のジン・ジャンは1933年12月29日に死んだ飯沼勲の転生ですから、1934年の1月か2月の生まれで、誕生石はガーネットかアメジストです。いくら父のものだったと言われても、ジン・ジャンは戸惑ったのではないでしょうか。しかも指環を贈られたとき、ジン・ジャンは本当にわかって聴いていないようなのです。
本多はやはりタイに行って、指環をジャオ・ピーに直に返すべきであったと、私は思います。
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