2018年03月

1990年代にベストセラーになったグラハム・ハンコックの『神々の指紋』は、買っただけで読んでいなかったのですが、一度読んでみることにしました。
1万2千年前に最後の氷河期が終わる頃に超古代文明と大災害があり、その痕跡が「ノアの大洪水」伝説など、世界各地に残っているという主張は旧ソ連のゴルボフスキーの『失われた文明』という本で読んだことがありました。冒頭に出てくる古代の南極大陸の地図は、確かゴルボフスキーも言及していたと記憶します。本書で目新しいのは黄道十二宮の「歳差運動」を詳しく取り上げ、オリオン座の三ツ星をギザの三大ピラミッドと結びつけるなど、天文学や数学の解説が豊富なことです。
いま読んでみると、たとえば2012年に世界的災害が起こるかのようなマヤの予言は当たらなかった(当たらなかったからこそ、こうしてブログが書けるのですが・・)とか、突っ込みどころも多いですが、古代史には謎が多いことは確かで、定説に疑問を持つことは大事だと思います。
学校の先生が子供に教えるときは、まるで先生は(ということは、現在の人類は)何でも知っていて、学問には疑問の余地も無いように見えますが、現実にはそんなことはありません。学問の最前線は工事現場のようにごちゃごちゃしているという見方が正しいと思われます。
学校の教育でも、本来はそういうことを教えるべきでしょう。ルイス・トマスの『科学者の夜想』にそんな考え方が書かれていました。彼は生物学者ですが、最先端で意見が対立している生物学者たちを学校に呼んで、子供たちの前で論争させたらどうかと言っていました。子供たちは呆れて見ているだけかもしれませんが、それが最大の教育になると言うのです。つまり、確実なことを知っている人は誰もいない、ということを教えるべきだということです。
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林房雄の『天皇の起原』(夏目書房)を読んでいます。これは面白い本です。
「三島由紀夫の天皇観」という章では、林は次のように書いています。

実は私にも三島天皇観は、彼の生前には難解であった。私がおぼろげながらその真意にふれることができるようになったのは、彼の市ヶ谷台決死行の後であった。それ以前には、天皇論については、私はしばしば「生きている三島」と意見をたたかわせて、しかも一致する点は少かった。
・・彼の天皇論だけを取上げようとしても、材料は意外に少い。・・断片はくだけ散った宝石のように鋭く輝いているが、彼はそれを学説にまとめる意志も時間も持たなかった。私がこの一章の題を「三島由紀夫の天皇論」とせず「天皇観」としたのは、その理由による。

一般には怪しいと言われる『富士古文書』と『上記(うえつふみ)』についても詳細に解説されています。林は友清歓真の『天行林』の一節を引いた後、次のように述べています。

私がこれに注目したのは、『上記』、『富士古文書』偽書説は、神社神道系の学者によって唱えられたものではないか、とふと思ったからである。
・・『富士古文書』のために斎藤内大臣をいただく「富士文庫」は創立されたが、その内容が『記紀』といちじるしく矛盾していることが判明すると、「一文献学者」の偽書説によってたちまち解散されてしまった。

別の章では国家神道と古神道についても考察しています。

国家神道になってしまうと、江戸時代の仏教と同じく、宗教の真精神は失われがちになる。そのために、天理教や大本教などの神道的大衆宗教の中にかえって古神道の精神が保存され、その故にこれらの新興宗教は政治的弾圧をうけるという奇現象さえも生まれた。

『富士古文書』などは明らかに後世の加筆はありますが、古代からの貴重な言い伝えが含まれている可能性は否定できないようです。
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イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクはアイザック・ニュートンが大嫌いでした。コリン・ウィルソンは『アウトサイダー』で次のように書いています。

『ヨーロッパ』には、ニュートンの異端説の結果として最後の審判がおこなわれることが書かれている(ニュートンの『予言論』を読む手数をいとわない人なら、ブレイクがこの科学者をなぜこれほど毛嫌いしたか理解しえよう)。・・この『ヨーロッパ』を最初とする一連の詩は、偏狭で実際的な態度、「単一の視覚とニュートンの眠り」を対象としている。・・東洋人の考えかたは、本質においてブレイクの考えかたと変らず、原爆や電子頭脳の機械文明には向いていないのだ。だからこそ、ブレイクはニュートンを嫌い、産業革命を敵視したのである。(中村保男訳)

『アウトサイダーを超えて』では以下の文章もあります。

突破口が開かれたのは、それから(トマス・アクイナス。引用者注)約300年後、アリストテレス以来ぴったり2000年後であった。それは主に六人の人によってなされた。コペルニクス、T・ブラーエ、ケプラー、ガリレオ、ホイヘンス、ニュートンである。なかでもニュートンは傑出しており、おそらくは人間思想の歴史において最も偉大な人物であろう。彼の偉大さはあまりにもめざましく、そのために彼は非人間的と見えるほどである。(同前)

一方、ブレイクが反発しつつ尊敬した科学者で神秘家のエマヌエル・スウェーデンボルグの『霊界Ⅱ』によると、ニュートンの霊は最上の天国にいるそうです。

ニュートンとは、霊界で何度も会った。そして、彼が実に真面目で、もののわかった人間(霊)であるということに感心した。彼は「天の理」の意味をよく理解していて、霊界でもほかの霊たちに愛されていた。(今村光一訳)

ニュートンも晩年には神学に熱中したようですが、読みたいかどうかと言われると微妙なところです。
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「六国史」で日本書紀に続く『続日本紀』は第42代文武天皇の即位から第50代桓武天皇の途中までを扱いますが、第43代元明天皇の和銅6年(713年)には「各国・郡・郷の名を好ましい字で表記せよ」という命令が出されています。「好字(二字)令」と言われるもので、現在の和歌山県にほぼ該当する「木国(きのくに)」が「紀伊国」と改められるなど、全国で表記の変更が相次いで行われました。
文武天皇の慶雲元年(704年)には粟田真人ら大宝の遣唐使が帰国した記事があり、この遣唐使が「倭国」から「日本国」への変更を伝えたことが分かります。小池清治氏が「日本語は悪魔の言語か?」という著書で指摘しましたが、この国名変更と好字令は関連しているように思われます。
日本の国名変更については、中国の10世紀の『旧唐書』では「日本国は倭国の別種なり。その国日辺にあるを以て、故に日本を以て名となす。あるいはいう、倭国自らその名の雅ならざるを悪み、改めて日本となすと。あるいはいう、日本は旧小国、倭国の地を併せたりと」と三つの説を併記しています。
11世紀の『新唐書』では「夏音を習い、倭の名を悪み、更めて日本と号す。使者自ら言う、国日の出ずる所に近し、以に名となすと。あるいはいう、日本は乃ち小国、倭のあわす所となる、故にその号を冒せりと」と、こちらも併記の形になっています。
14世紀の『宋史』では「日本国は本の倭奴国なり。自らその国日出ずる所に近きを以て、故に日本を以て名となす。あるいはいう、その旧名を悪みこれを改むるなりと」となり、日本は倭奴国から連続しているととらえています。
朝鮮半島の史書では、12世紀の『三国史記』新羅本紀の文武王10年(670年)に「倭国が国号を日本と改めた」という記事がありますが、井上秀雄氏は「新唐書を誤読したもので、703年の出来事を670年と勘違いしたものだろう」と推測されています。
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三島由紀夫のF104搭乗は「ミニ宇宙体験」と言ってもよいかと思われますが、アポロ・スカイラブ以前のアメリカの宇宙飛行士たちにインタビューした立花隆の『宇宙からの帰還』(1983年、中央公論社)は再読しても面白い本でした。
宇宙飛行士からキリスト教の伝道師に転身したジム・アーウィンや、アポロで月着陸を果たした後に精神病院に入院したバズ・オルドリンの物語も興味深いですが、「宇宙人への進化」を語るエド・ミッチェルやラッセル・シュワイカートの発言は心に残ります。
「人間は宇宙に進出することによって地球生物から宇宙生物に進化した。人間の地球生物時代は、宇宙生物としての人間の前史にすぎない」(エド・ミッチェル)
「宇宙から地球を見たとき私の受けた精神的インパクトは、ちょうど、人間の体内にいたバクテリアが体外に出て、はじめて人間の姿全体を目にして、それが生きて動いていることを知ったときに受けるであろうようなインパクトだったのだ」(ラッセル・シュワイカート)
立花隆が「むすび」で書いたように
「私の生きている間はともかく、若い読者諸君の生きている間には、ほとんど確実に(つまり、人類が大規模な戦争をひき起こすとか、世界経済を破綻させるとかの愚行をおかさぬかぎり)、人類の宇宙への本格的な進出時代がはじまるだろう」
という状況に近づいてはいますが、日本が先頭に立って愚行を起こす危険は増大しているように思われます。
1975年にアメリカのアポロとソ連のソユーズのドッキングが行われたとき、アメリカ側の船長を務めたディーク・スレイトンは
「第二次大戦中はB25爆撃機のパイロットとしてヨーロッパ戦線で五十六回出撃。その後太平洋戦線に転じて、沖縄基地に移り、日本の本土空爆に七回出撃した」
そうですが、立花隆はこれを書きながら何も思わなかったのでしょうか。彼が投下した爆弾で死んだ日本人がいたかもしれません。他の宇宙飛行士たちの経歴からもアメリカの軍・産・学の複合ぶりが窺われて、複雑な思いを禁じ得ませんでした。
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