「どんな強者と見える人にも、人間である以上弱点があって、そこをつっつけば、もろくぶっ倒れるものですが、私がここで「弱い者」というのは、むしろ弱さをすっかり表に出して、弱さを売り物にしている人間のことです。この代表的なのが太宰治という小説家でありまして・・」
例によって冒頭から太宰批判です。三島が自分の中にある弱さを押し隠し、強さを表面に出す人だったことは今さら言うまでもないですが、この章では一人漫才のような三島の文章が面白いので紹介しましょう。
「「ヘン、又失恋しやがった。好い気味だ」
「そんなにいじめるなよ」
「何だ。その釦穴にくっつけてる鼻クソみたいなものは」
「彼女が去年くれたスミレの花だよ」
「バカバカしい。そんなもの捨てちまえ。胸くそのわるい」
と君はそのスミレの花をむしりとって、地べたに投げ捨てて、ツバを引っかけてやる。
「アッ、何をするんだ」
「口惜しかったら、俺をなぐって来い」
「なぐるなんてそんな。君が友情で、そんなことをしたのが、僕にはわかっているんだもの・・ありがとう。(ト泣く)」」
そこで「君」は彼をなぐりますが「アッ、いたた。(泣きながら)でも、ありがとう・・僕にはわかるんだよ、君の友情の鉄拳が」
こんな具合ですので、最後に三島は「皆さん、この勝負はどちらの勝でしょうか」と問うていますが、自分の勝ちを信じていないようにも見えます。
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